2025.12.27
股関節臼蓋形成不全について
股関節臼蓋形成不全についての症例
【患者】
61歳女性 事務職
【主訴】
右股関節の痛み
【来院】
令和7年10月18日
【現病歴】
10年前から歩くときに右股関節の違和感は気になっていたが今年に入ってから、
座っている状態から立ち上がる時や歩く時間が長くなると痛みがでました。
先月から車の乗り降りの際や階段の昇りでも痛みが気になり当院に来院。
来院時、跛行はないものの歩行時痛を認め、痛みの程度は今月が一番強いとのこと。
今回の発症について特に思い当たる原因はないとのことだが、
座る時割座を幼少期から最近まで日常的にしていたようです。
【既往歴】
中学生の頃、マット運動でロンダートを行うとき痛みがあった。
【運動歴】
中学3年間、器械体操をしていた
【診察所見】
自発痛(-) 夜間痛(-) 神経症状(-) 歩行時痛(+) IC(-) C-sign(+)
股関節最大屈曲痛み(+)→Drehmann(-) 股関節内旋左右53°大殿筋Tightness(+)
FADIR(+) FEBER(+) Newton(-) Roll test(±)
【評価】
➀股関節臼蓋形成不全
➁大腿骨寛骨臼インピンジメント(Pincer)
③股関節唇損傷 の疑い
【病歴】
本症例は、まず自発痛・夜間痛・跛行・既往歴等がなく股関節の動作時による痛みの誘発・増悪がみられる事から
股関節のレッドフラッグの可能性が低いと考えました。
次に、歩行時痛から腰部脊柱管狭窄症も疑いましたが、間欠性跛行がなく神経症状もないことから除外しました。
そして、痛い所を聞き出してみると「C-sign」と呼ばれる患者が股関節周囲をC字型に
指差す訴えがあったため股関節疾患を疑いました。
股関節最大屈曲位で鼠径部に疼痛の誘発、FADIR、FEBERともに陽性、
正常の股関節内旋可動域(標準整形外科学14版参考)から逸脱しているため股関節前捻角の増大、
股関節外転・外旋可動域の減少、年齢、幼少期からの割座などのことから➀~➂の評価をしました。
【施術/経過】
まずは、初診時の股関節の外旋15~20°の改善を目標にしてから運動療法にて
股関節・体幹の安定性を確保していくことにしました。
初回は、ハイボルテージと手技療法で鎮痛処置と股関節外転外旋可動域を広げる目的で実施。
疼痛は軽減し、可動域をやや広げることはできた。(股関節外旋30°ほど)
2回目受診した際にエコー観察上、Pincer・関節唇損傷あり。
3回目の施術では、股関節の求心位を保たせる目的で週に一度楽トレ(複合高周波EMS)と
股関節殿筋群の柔軟性をつけるため骨盤矯正を実施。
求心位が保たれていることで関節の適合性が増し、股関節は安定性と可動性を得ることができます。
週2回来院指導をし、楽トレがない日は、関節可動域広げる治療をしていくことにしました。
5回目の施術で、歩行時の痛みは緩和してきているが大股で歩くと痛みが気になってしまうとのことでした。
そのため、股関節のインナーマッスルに対して鍼実施したが、
鍼後痛くなったのと不安感があったので再度手技とハイボルテージで行っていくことにしました。
1ヶ月経過したころから股関節外旋30~40°確保できたのと歩行時痛(-)のため運動療法実施。
【運動療法】
1週目:ヒップリフト、pelvic前弯後弯運動、シングルレッグブリッジ
2週目:Cat & Dog、サイドプランク
3週目:側臥位股関節外転運動、クラムシェル、仰臥位股関節内転運動
4週目:シングルレッグ・サイドプランク応用運動、股関節内転外転運動
【今後の治療方針】
現在は、歩行時と階段昇降での痛みはないが車の乗り降り、特に乗る時痛みがあります。
これは、楽トレによる腸腰筋の股関節前面の安定性が増したものの、
外旋筋群や小殿筋での骨頭の求心位が保たれていない事や殿筋の硬さによって大腿骨頭が前方に押し出される事で
インピンジメントが起きやすい状態になっていると考察する。
また、院内でクラムシェルを行うと痛みなく行えるが家に帰って行うと
痛みが出てしまう。
これは、手技療法で股関節外旋の可動域を広げてからリハビリを行うため痛みなく
行えるが帰るまでに歩行や運転の際の座り時間で筋肉が短縮してしまい外旋すると
上手く行えず痛みが出てしまうため今後も可動域を広げ維持できるようにしたい。
今後は、楽トレを継続しつつも荷重をかけた状態のリハビリを検討していきたい。
【総括】
本症例は、幼少期から割座する習慣が多いことによって発育期の股関節に
過度な内旋が加わってしまい股関節臼蓋形成不全を引き起こしたと考えられる。
さらに、仕事の不良姿勢が長期間にわたり持続していたことで、大殿筋・外旋筋群の短縮・腸腰筋の弱化により
FAIが機能的にも起こりやすい状態になったと推察できます。
構造の問題が根底にある疾患でも、股関節周囲の柔軟性の改善や体幹・股関節周囲の
リハビリテーションは非常に効果的であると感じました。
これは、構造の破綻があっても機能を向上させるとリカバリーできる範囲であったということだと思いました。
本来であれば構造自体に問題がある場合は、いかに構造を正常な状態にしていくか考える必要がある。
しかし、本症例では機能を優先させた方がリハビリの時間を短縮でき、
変形性股関節症の進行を遅らせることができるメリットの方が大きいと感じました。
反省点としては、患者に鍼のメリットのみ伝えてしまった事と鍼灸師に刺激量の調整について申し送りできなかった事です。
今後鍼灸を勧める際は、鍼特有の響きがある事などのデメリットも含めた説明を行うのと
鍼灸師に頼むときは患者情報と目的を簡潔に述べられるようにします。
本人も能動的にリハビリに対して取り組んでくださっているので、患者のモチベーションを
保ちながら根気強く今後も施術を行っていきたいです。



